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昨年11月に、文部科学省から小学校・中学校・高等学校のそれぞれの生徒にむけて「放射線等に関する副読本」が配布されているのはご存知だろうか。「放射線等の基礎的な性質について理解を深める」目的で「学校教育における指導の一助として使用していただくため」に配布しているそうだが、一読したところあまりのひどさに呆れてしまった。その内容とは…。 副読本は小学校・中学校・高等学校のそれぞれの生徒向けと教員向けに作成されている。これは文部科学省のホームページでPDF文書を誰でも入手できるので可能な方はぜひご覧になっていただきたい。(文部科学省、放射線等に関する副読本のページ)内容はそれぞれの学年に応じた表現や情報量で記述されているが基本的な方針はまったく同じである。教員用にしても開設のための補足が加えられている他、指導のポイントなどが記入されている点を除けば同様である。ではその基本方針とは何か。一言でいえば「放射能は少なければ安全」ということである。そして少ないとはどの程度かというと、年間100ミリシーベルト(以下はmSvと記述)だそうだ。驚きの数値である。日本では一般人における年間の被曝許容量は1mSvではなかったのだろうか。確かに原発事故以降、復興計画が進むなか「避難指示解除準備区域」と呼ばれる区域でさえ上限が20mSv以下という信じられない基準設定がされているが、それでも50mSvを越える区域は「帰還困難区域」と呼ばれ制限されるのである。それを100mSvでも大丈夫とはどういうつもりなのだろうか。実際の記述をご覧いただこう。放射線量と健康との関係一度に多量の放射線を受けると人体に影響が出ますが、短い期間に100ミリシーベルト(mSv)以下の低い放射線量を受けることでがんなどの病気になるかどうかについては明確な証拠はみられていません。普通の生活を送っていても、がんは色々な原因で起こると考えられていて、低い放射線量を受けた場合に放射線が原因でがんになる人が増えるかどうかは明確ではありません。国際的な機関である国際放射線防護委員会(ICRP)は、一度に100ミリシーベルトまで、あるいは1年間に100ミリシーベルトまでの放射線量を積算として受けた場合でも、線量とがんの死亡率との間に比例関係があると考えて、達成できる範囲で線量を低く保つように勧告しています。また、色々な研究の成果から、このような低い線量やゆっくりと放射線を受ける場合について、がんになる人の割合が原爆の放射線のように急激に受けた場合と比べて2分の1になるとしています。ICRPでは、仮に蓄積で100ミリシーベルトを1000人が受けたとすると、およそ5人ががんで亡くなる可能性があると計算しています。現在の日本人は、およそ30%の人が生涯でがんにより亡くなっていますから、1000人のうちおよそ300人ですが、100ミリシーベルトを受けると300人がおよそ5人増えて、305人ががんで亡くなると計算されます。なお、自然放射線であっても人工放射線であっても、受ける放射線量が同じであれば人体への影響の度合いは同じです。回りくどくてわかりづらい文章である。これは中学生の生徒用副読本からの引用だが、いわゆるお役所的な表現が多くてわかりづらい。それでも、ここで基準としている数値が100mSvであることはよくおわかりだろう。そして重要なのは「がんとの因果関係が明確でない」と言っていることである。そしてこのページにある図表のなかでは「がん死亡が増えるという明確な証拠がない」とまで言い切ってるのだ。ほかにも「放射線業務従事者の年間線量限度」には図表に線で示されるだけで数値が記入されていない。100mSvでも安全と言った手前、放射線業務従事者の年間線量限度が20mSvとは記述できなかったのではないだろうか。このあとの部分でもガンの発生原因は生活習慣などいろいろあると記述しているが、いずれも放射線被曝が「がん死亡が増えるという明確な証拠がない」ことを、主張するのみである。なんという欺瞞に満ちた副読本だろうか。とくに怖く感じたのは、具体的な被曝量の数値は「100ミリシーベルト」のみで、他の数値が登場しない点である。人間の記憶というのは曖昧なもので、多くの数値を羅列されると混乱してしまうがひとつきりならはっきりと記憶できる。つまり「100mSv=安全」という意識を植えつけようという魂胆が見え見えなのである。中学生のための放射線副読本・放射線量と健康の関係の図表(一部を拡大)ちなみに目次は下記の通りである。◆不思議な放射線の世界◆太古の昔から自然界に存在する放射線◆放射線とは◆放射線の基礎知識◆色々な放射線測定器◆コラム 放射線・放射能の歴史◆放射線による影響◆暮らしや産業での放射線利用◆放射線の管理・防護◆放射線についての参考Webサイト目次をみても放射線の危険性を伺わせるようなタイトルを避けているのがわかる。実際、危険性を解説したページなど無いのである。ほとんど放射線の基礎知識と、どれだけ社会で利用されているかを解説するものばかりだ。 例えばキュリー夫人はラジウムの発見や「放射能」の名付け親として紹介されるのみで、その死については何も記述が無い。 上記の「放射線量と健康の関係」は目次では「放射線の影響」の項にある。同項には「外部被ばくと内部被ばく」の解説もあるが、挿絵の少年少女がこの笑顔である。同じく中学生のための放射線副読本・放射線量と健康の関係の図表(一部を拡大)挿絵に関してはとにかく笑顔ばかりである。こうしたことも放射線が危険で無いと思わせるための「誘導」としか思われない。まるでサブリミナル効果の様である。放射線の被曝にしきい値などない。以前から主張している通りである。低ければ低いなりの影響があるのが放射線である。(詳しくは「放射線ホルミシス説という迷信」を参照のこと)この副読本を読んでいて思い出すのは、993年に動力炉・核燃料開発事業団(動燃、現日本原子力研究開発機構)が企画制作した広報用ビデオ「プルトニウム物語 頼れる仲間プルト君(プルトニウムものがたり たよれるなかまプルトくん)」である。以前、ANOTHERチャンネル「原子力ムラの言う「安全」という”まやかし”」で紹介されているので、覚えておられる方も多いだろう。プルト君のビデオではプルトニウムや原発の安全性を謳い上げていたが、手法はこの副読本と良く似ている。一瞬同じ人間が制作したのではないかと思ったくらいだ。そして、もうひとり思い出す人物がいる。「ミスター100ミリシーベルト」の異名を持つ山下俊一教授である。彼は現在、福島県放射線健康リスク管理アドバイザーであり福島医大理事長付特命教授でもある。異名の由来はかねがね「影響があるのは100ミリシーベルト以上の放射線量を1回で受けた時で、将来、がんになる可能性が1万人に1人ぐらい増える」との主張を繰り返しているからだそうだ。もしやと思い確認したが編集者の中に教授の名前は見当たらなかった。名前が無くとも主張はそのままである。影響を受けた者が編集者にいるに違いない。なにしろ細野原発事故担当相までもが、最近同様の発言をしているからだ。曰く、「100mSv以下ということになると、疫学調査は行われてきたけれど、他のガンのリスクに隠れてしまい、隠れてしまうほど小さいものですから、放射線によるリスクの明らかな増加を証明することは難しい…」だそうである。しかし、よくもこれだけ言い切ったものである。 考えて見て欲しい。 政府というか原子力災害対策本部は、昨年12月末の会合で、3月末までに現在の警戒区域、計画的避難区域の再編を決めている。 その内訳は、 (1)年間積算放射線量が現時点で50ミリシーベルトを超える「帰還困難区域」 (2)同線量が20ミリを超える恐れがある「居住制限区域」 (3)同線量の20ミリ以下が確実な「避難指示解除準備区域」 となっているのだ。 一方で50mSv超は「帰還困難区域」だとし、一方では100mSvを超えなければ安全だとする。とても同じ政府の発言とは思えない。 これはつまり政府内部にいる原子力村の人達の巻き返しが進んでいることを意味しているのではないだろうか。先日行われた「さよなら原発1000万人アクション」では、東京で約12,000人の参加があるなど脱原発運動は盛り上がっているように見える。しかし、原子力村の巻き返しはより確実に進行しているようである。脱原発の署名も400万を超えたそうだ。素晴らしい数字だとは思うが、運動自体もそろそろ次の段階に移らないと掛け声だけで終わってしまうのではないかという危惧を覚えるのは私だけだろうか。とりあえず、子どもをお持ちの皆さんにはお子さんに副読本の有無を確認して、お持ちでしたら一緒に読んでいただきたい。話し合いをされると尚結構だと思います。ぜひお願いします。(安東 一雄)