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この映画を語らせろ・「007シリーズ(ショーン・コネリー編)」 「ウォッカ・マティーニを。ステアせずにシェークで。(シャンペングラスでくれ)」 これは映画007(ダブル・オー・セブン)シリーズの主人公ジェームズ・ボンドの名台詞です。
残念ながらこの名台詞は原作の中だけで、映画では口にしません。 ただしウォッカ・マティーニ自体は随所に登場します。 シリーズ第1作「ドクター・ノオ」では敵役ドクター・ノオがご馳走してくれます。 しかもドクター・ノオは「ステアでなくシェークしてある」とわざわざ断っています。 このようにジェームズ・ボンドは「酒にうるさい男」です。 他にもドクター・ノオから出された1955年のドン・ペリニヨン(シャンペンの銘柄)にたいして、1953年もののほうがいいと言ったりします。 しかし、本来はジンでステア(注1)して作るべきマティーニを、ウォッカでシェーク(注2)でシャンペングラスでなんて意表を突いた台詞は『スノビズム(注3)』にしてもやりすぎの感がします。 シリーズの日本公開は1963年からですが、当時の日本ではカクテル文化は未成熟だったせいか、この辺りの機微はうまく伝わらなかったようで「カッコイイ」とだけ思われたようです。 しかしアメリカでは逆に爆笑だったという話があります。 そもそもアメリカ人は英国人(英国紳士)を『スノッブ(注3)』として馬鹿にする(したい)傾向があるようです。その点で、ジェームズ・ボンドの気取った台詞や仕草はそういうアメリカ人の格好の標的になったという次第です。 そういう視点で007シリーズ、特にショーン・コネリー主演の初期のシリーズを見直してみると、ツッコミドコロ満載な映画(シリーズ)であることがわかります。 まず、ジェームズ・ボンドのスノッブなシーンでは、 ・煙草は特注品(ロンドンの「モーランド」で作らせた金線入り)を切らしません。 ・美食家で特に卵料理がお気に入りです。 ・舌平目のグリルを食べるシーンで適役が赤ワインのキャンティを注文したことを不審に思います。 ・ネクタイの結び方ひとつで、敵を見抜きます。 ・シャンペンは3.5℃に冷やすのがルールです。 ・ビートルズは耳栓をして聴きます(時代を感じますね)。 またスノビズムとは違いますが、仕草のひとつひとつが気障です。 シリーズでお約束になるシーンが1作目から登場します。 ・呼び出しを受けた時、いつも女性を口説いています。 ・上司のMのオフィスにやってくると、必ず帽子を投げて帽子掛けに掛けます。 ・さらに必ず秘書のマネーペニーを口説きます。 ・なにかというと胸毛を見せびらかします。 これだけでは、ただ二枚目のプレイボーイなだけです。しかしジェームズ・ボンドはスパイなのですから、それにしては?なシーンが多いのも特徴です。 何といってもスパイにしては目立ちすぎです。 1作目でもジャマイカに着いた途端に、敵の出迎えを受けて、「情報が漏れている」と言っていますが、「あなたが目立ち過ぎなだけ」としか思えません。 さらに、ジェームズ・ボンドは主役でヒーローなのに意外と弱いです。 ・上司Mに愛用の拳銃ベレッタを女性用だと言われ別の小型拳銃ワルサーに交換されます。 ・ベッドで毒グモに襲われるシーンの怯え方はかなり大袈裟です。 ・睡眠薬入りコーヒーを、無警戒に飲み干してから「しまった」とつぶやきます。 ・よく後頭部を殴られて気絶します。 ・結果としてよく敵に拉致されます。 しかし敵に捕まるのは、お約束と言ってもいいでしょう。 なぜなら彼を助ける美女の登場だからです。 有名なボンドガールですね。 このボンドガール、敵の首領の愛人であることも多いのですが、例外なくジェームズ・ボンドに惚れてしまいます。 ですから捕まって閉じ込められてもジェームズ・ボンドは平気です。 悠々と自慢の胸毛をさらしてベッドに寝そべっていると、ボンドガールが○○ホイホイよろしくやってきて助けてくれます。ジェームズ・ボンドを敵視している場合でも大丈夫、ボンドに強引にキスされた途端にメロメロ、すぐに裏切って助けてくれます。 さらに登場する女性はボンドガールでなくとも、みんなジェームズ・ボンドに惚れます。それこそ、すれ違うだけの女性でもジェームズ・ボンドに秋波を送ります。 まぁ、とにかくよく「モテル男」なのです。 さて、007シリーズにはもうひとつ有名なものがあります。 それが、ボンドカーをはじめとする数々の秘密兵器です。 2作目まではアタッシュケースなどだけで、控えめな感じですが3作目で、ついにボンドカーが登場します。当時、発表されたばかりのアストン・マーチンDB5がそれです。 防弾装置に煙幕とオイルの追跡撃退装置、兵器ではマシンガン、さらに脱出装置など特殊装備を満載しています。 多くの小学生の男の子が、この秘密兵器にすっかり夢中になり、巷では銀玉鉄砲を片手に「スパイごっこ」が大流行しました。 こう書くと子ども向け映画のようですが、シリーズは世界的な大ヒットとなりました。 1作目から大人気で、3作目の「ゴールドフィンガー」では1964年の世界興行収入で1位の映画となり、日本でも1965年には日本映画も含めた興行成績で第1位となったほどです。 つまり大人も子どもも、みんなが夢中になったのですね。 おかげで「悪役から美女を救い出す」凡庸なパターンも、誇大妄想的な設定も、ますますエスカレートする一方、例の「胸毛マッチョイズム」も、グラマラスなボンドガールとセットになって人気のもととなりました。 原作自体は、重厚なリアリズム派スパイ小説とは対極の、華やかで享楽的な設定に、アメリカン・ハードボイルド小説的なシビアな暴力やアクションを加えたものでしたが、映画では「華やかで享楽的な設定」をより強調し、当時としては珍しくセクシャルなシーンの多い作品となっています。 さて、話を秘密兵器に戻しますとカッコイイというより珍妙なものもたくさん登場します。 先ほどのボンドカーの脱出装置もそれで、まったく用途がわかりません。なぜなら助手席にしか装備されていないからです。秘密兵器担当官Qの説明でも「(ボタンには)絶対に触れるな」と言っています。何のための装備なんでしょう? では役に立たないかというと、ちゃんと使われています。 ボンドカーの助手席に乗り込んだ敵を外に放り出して助かるというのが、そのシーンです。 もっとも、助かったのも束の間、壁に激突してボンドカーは大破、ジェームズ・ボンドはまたまた捕まってしまうのですが・・・。 他には、 ・開け方を間違うと催涙ガスが噴出すアタッシュケース(なぜか金貨を50枚仕込んであります) ・ガスを噴出するパーキングメーター ・ハンドパンチャー(銃を取り上げようとボンドのタキシードに入れた敵の手にスチール製のバネ仕掛けの罠が噛み付く) ・Qが前年のクリスマスに子どもに作ってやったという電話の音声変換装置 (それってオモチャじゃないの?) ・月面車(!?) ・一人用で背負い、ロケット推進で飛行できるロケット・ベルト(ジェット・パック) などが、あります。 また、敵のものですが「オッド・ジョブ(よろず屋)が使用する縁に刃物を仕込んだ山高帽」があります。これは、とにかくたくさん真似されたのでも有名です。そして極めつけは「黄金銃を持つ男」の黄金銃でしょう。 これは「全て金色のウォーターマンの万年筆、コリブリのライター、シガレット・ケース、カフスボタンを組み立てて作られる単発銃で、金製の弾丸で標的を殺す」というものでした(ただしこれが登場するのはショーン・コネリー版ジェームズ・ボンドではありません、残念)。こうした?はディティールだけでなく、ストーリーにも当然見られます。次回は、007シリーズの誇大妄想的なストーリーの魅力について、語りたいと思います。後編に続く・・・(小田切聖之介)今回、紹介した主な作品
(注1)ステア カクテルを作る手法の一つ。ミキシンググラスに材料を入れ、バー・スプーンでかき混ぜる手法。 (注2)シェーク 材料と氷をシェーカーに入れて振り、強く混ぜ合わせる技法。 (注3)スノッブ、スノビズム スノッブ(snob)は一般に俗物、またスノビズム(snobbism)は俗物根性と訳される。 社会的地位や財産などのステータスを崇拝し、教養があるように上品ぶって振る舞おうとする人を言うが、ここでは学問や知識を鼻にかける気取った文化人の意味。